私が里山十帖を知ったのは、発酵食を食べさせてくれる宿を探していた時のこと。その後、気にして旅行雑誌などを見ていると、絶景露天風呂の写真が掲載されていることも多く、ご存じの方も多い宿と思います。雑誌自遊人の代表でもある岩佐十良氏がプロデュースした宿で、とても上質な空間と食事とサービスを提供する宿と評判です。泊まってみたいと思っていましたが、客室数が離れの1棟も含めて13室と少ないので、希望の日に希望のお部屋が取れないこともありました。今回、雪見温泉の時期に巻機山を眺められる204号室に宿泊することができたので、宿泊記をまとめました。2024年2月の旅です。
里山十帖の概要
- 全13室(内1室は離れ)。すべて室内のデザインが異なる。
- お食事はミシュランガイド一つ星獲得の桑木野シェフが担当
- 館内Wifiは快適。室内のコンセントの数も豊富
- 上越線の大沢駅から一日一往復の無料送迎あり
- 平日に1人で泊まって2食付き53,000円くらい
公式サイト
チェックイン
こちらが里山十帖の玄関です。重厚な両開きドアは自動ドアです。
重厚な扉の中にはいるとレセプションエリアです。大きな打ち出の小槌がお出迎え。
レセプションがある建物は築150年の古民家です。レセプションのある空間は高さ10mほどの吹き抜け空間になっていて、黒光りする太い梁が何本も渡されている構造に圧倒されます。
レセプションエリアには有名デザイナーの手による素敵なデザインのチェアとテーブルが用意されています。私はこちらのチェアとテーブルでチェックイン手続きをさせてもらいました。座り心地が良かったです。
ウェルカムスイーツとドリンク、おしぼりが運ばれてきます。
一息つくと、スタッフがお部屋まで案内してくれました。
204号室はこんなお部屋
「里山十帖」の設計・デザインは、自遊人という雑誌を発行している株式会社自遊人の代表であり編集者でもある岩佐氏が手掛けていますが、離れを除いた12ある客室のうち、2つだけはゲストの設計者がデザインしています。私が宿泊した204号室もその一つで、若手建築家の海法圭氏が手掛けました。
入り口を入ると最初に洗面台やトイレなどのスペースがあり、マウンテンビューのお部屋なのに、入り口入ってすぐはそのビューを見ることはできない構造です。洗面スペースからさらにその奥入ると寝室です。
寝室に足を踏み入れると初めて巻機山を望む景色が目に飛び込んでくる設計です。
こちらのお部屋は角部屋なので、横方向にも窓があります。
寝室の奥にはリビングがあり、テーブルとチェア、デスクライトがあります。Wifiも快適でお仕事がはかどりそうなスペースです。リビングとベッドルームの仕切りの部分にはガラスは入っていません。
リビングの外にはアウトドアリビングがあり、露天風呂が用意されていて、24時間いつでも入ることができます。温泉ですが温度管理のため循環式です。
お部屋の露天風呂で雪見風呂なんて最高。でも裸になって湯船に入るまでの一瞬が超寒いです。
雪国らしい景色。遠くの山は巻機山とのこと。今回は寒くて外の椅子に座ってくつろぐのは無理だったので、室内のチェアから楽しみました。グリーンシーズンはアウトドアが気持ちよさそうです。
寝室の窓のところには、電気ポットやウェルカムスイーツ、台の下には冷蔵庫が用意されています。電気ポットとグラスの間の円筒形の容器は蓋つきのコーヒーカップです。
冷蔵庫にはこの辺りの美味しいお水、冷茶、ジュース、ハーブティなどが用意されていて、すべて無料でいただくことができます。
まん中のボトルはリラックス効果が期待できるハーブティーでした。
お茶を飲みながらこちらのチェアーで読書するのも良さそうです。
冷蔵庫の隣には籠が置いてあり、中には防虫キットが入っていました。虫の棲みかですからね。カメムシ対策のガムテープやスプレー缶などが入っています。
こちらは入り口入ってすぐの場所にある洗面台です。バスタオルは1枚のみ用意ですが、タオルウォーマーがあるので、タオルを快適に使えました。タオルは茶色のタグがついたタオル(籠の手前側に入っているタオル)は持ち帰り可能です。化粧水などの基礎化粧品は瓶の中に用意がありました。
洗面台には歯ブラシの用意がありますが、こちらは環境を大事にしている里山十帖らしく、土に環る歯ブラシです。ブラシの毛も一本一本手で埋め込んであると書かれていました。台湾製です。
館内着の用意があります。上下セパレートタイプで靴下は持ち帰り可能です。館内はスリッパがないので、靴下はありがたいです。
加えて防寒着としてカーディガンの用意もありました。
お部屋のエアコンは各部屋で温度設定が可能です。ベッド周りにはコンセントの差し込み口が4つあり、1つはスタンドに使用されていますが、スマホの充電などには困りませんでした。が、こちらのコンセント、お部屋全体の照明のスイッチと連動している感じがします。スイッチをオフにすると部屋の照明もスタンドも消灯します。朝起きたらスマホの充電ができていませんでした。
アウトドアリビングまで含めてトータル49㎡の広さがあり、1人でも二人でも十分な広さと思いました。寝室とリビングスペースが緩く区切られているのも良いです。入り口側から寝室、リビング、アウトドアリビングの順なのですが、外に向かうにつれて天井の高さが高くなるようデザインされていました。
公式サイトのお部屋の説明には、備品にテレビと書いてあるのですが、2024年1月から客室と館内のテレビはなくなったそうです。私はあんまりテレビを見ないので、テレビがない宿でも問題なしです。
温泉
浴室は客室棟からは渡り廊下で結ばれた温泉棟にあります。
渡り廊下には屋根がありますが、壁の部分は外気と通じているので、冬場は寒いです。
2か所の浴室の内湯はほぼ同じ木のお風呂です。
露天風呂は浴室によって趣が異なり、よく雑誌で見るこちらの露天風呂がついている浴室は、私がチェックインした時は女湯でした。夜の10時になると暖簾が入れ替わります。
宿のスタッフの方に他にお客さんがいない時なら、撮影しても良いですよとのことでしたが、チェックインした日はいつ行ってもお客さんがいたのと、結構強めの雪が降っていて、眺望がきかず、かつ寒かったので、昼間は露天風呂をあきらめました。そんなわけで、雑誌の表紙の露天風呂の写真はありません。夜に雪はやみましたが、星空で出るほどには回復しませんでした。
翌朝はもう一方のお風呂が女湯になり、誰もいなかったので独泉で楽しみました。こちらの露天風呂は石の浴槽です。なんかもう水墨画の世界でした。メチャ感動。
露天風呂は屋根がほとんどなく、雪がふる時は頭に積もりますが、笠の用意がありました。
脱衣所は鍵付きロッカー式でした。
泉質
泉質はナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉(低張性弱アルカリ性低温泉)です。泉温が27.2℃なので加温していますが、加水はなし。湧出量は148リットル/分とありますが、貴重なエネルギーを無駄にしないよう、循環装置を使い、必要最小限の消毒もしています。お湯はとろみがあり、湯上り後はお肌がツルツルになりました。湯の花も豊富に舞っています。
里山十帖がある大沢地区には、全部で3件の湯宿があり、その中の一つ幽谷荘に源泉があるそうです。そこからの引湯しています。
湯船には湯口から温泉が注がれていますが、夜9時くらいに行ったら、内湯の浴槽のお湯が人肌よりも冷たくて、ちょっと入る気になりませんでした。昼間に入った時に投入されている湯に触ったらとてもぬるくて、どうしてこの温度のお湯で浴槽の湯温がキープできているのか不思議だったのですが、その時からちょっと湯温のコントロールができていなかったのかもしれません。他のお客さんからの連絡でスタッフがすでに到着していて、湯温の調整をしてくれました。
お食事
里山十帖では地域の食材を自然の力を借りて熟成させて無駄なく使いきる、雪国ならではの食文化を体験できるところが里山十帖に泊まりたいと思った理由の一つです。味噌や醤油なども調味料も宿で作っているそうです。調理はミシュランガイドで1つ星を獲得された桑木野恵子さんが担当されています。野菜が主役のお料理はどれも体に優しく感じました。
お食事をいただく場所
食事は部屋食のチョイスはなく、かといってレストランとか食事処という名称だといまいちしっくりきません。レセプションがある古民家の大広間のテーブルで他のお客さんと一緒に頂くか、半個室のスペースでいただくかになります。大広間の場合でもテーブルはグループごとです。
私は一人だったので、夕食・朝食ともに半個室をお願いしました。上の写真の奥に見えているお部屋が半個室で、左右それぞれが半個室スペースです。左側のお部屋は広間との襖を閉めるとこんな素敵な空間です。
もう一か所、レセプションから客室棟に行く通路沿いにもモダンな感じの半個室スペースがありました。
夕食前のミニツアー
夕食は17時スタートと19時半スタートの完全2部制です。17時スタートの場合は、30分前からミニツアーがあるのでおススメ。私は17時からの夕食を選びました。ツアーは強制ではないので、参加したい人が16時半にフロント前に集合してスタートします。この日は雪室見学でした。外を歩きますが、長靴は貸してもらえます。
雪室の中は頑丈な鉄骨組になっていて、雪の重さに耐えられるようにとのこと。
雪室の中では火鉢を囲むように座るスペースが確保されていて、ツアー参加者は座ってスタッフの説明を聞きます。まずは甘酒のサービス。丁寧に作られた甘酒で、すっきりとした甘みが大変美味しかったです。
続いて火鉢でお餅を焼いてくれます。焼きあがるとお醤油を塗って、海苔で巻いていただきました。お醤油も発酵食品の一つです。
夕食
ミニツアーから戻るとそのまま食事会場に案内され、夕食のスタートです。こちらがこの日の献立。献立の冒頭に「大寒」とあります。これは二十四節季の一つ。その下の「鶏始乳(にわとりはじめてとやにつく)」は二十四節季をさらに3つに分けた七十二候の一つで、鶏が卵をうみ始める時期ということです。
最初のお料理は胡麻豆腐です。胡麻豆腐と聞くと灰色というか茶色というか、そんな色付きの豆腐をイメージしていましたが、こちらの胡麻豆腐は真っ白でした。
飲み物は単品でのオーダー以外に、それぞれのお料理に合わせたお飲み物がお料理ごとに運ばれてくるペアリングドリンクがあります。ノンアルのペアリングもあって、料金は11,550円とかなりお高めですが、どんな飲み物が提供されるのか興味があったのでペアリングをお願いしました。
まずは胡麻豆腐に合わせて、五福茶というお茶が出てきました。お祝いの席などで提供されるそうで、大豆やかんきつ類の皮など5種類の素材が入っています。七福茶を出すところもあるそうですよ。
続いて迷いカツオのお料理です。鮮やかな野菜の下にカツオがありました。迷いカツオと言うのは、普段太平洋側にいるカツオがたまに日本海に迷い込んでしまうそうで、そのカツオを使っています。こちらのお料理には杉の実を使ったちょっとすーっとした口当たりのドリンクがペアリングされていました。
続いてのお料理はお椀です。中にとちの実のお団子が入っていました。ペアリングドリンクはローズマリーを使った飲み物でした。
お椀のお料理をいただいていると、スタッフの方が桶を抱えてお部屋にやってきました。次のお料理の食材を店に来てくれたのです。次のお料理はカジカと書いてありましたが、こちらのお魚がカジカなのだそうです。冷たい水の中に入って捕獲するのだとか。なかなか獲れないようです。
先ほどのカジカがお皿にのって運ばれてきました。肝を抜いて揚げてあり、肝はソースに使われています。海苔でくるりと巻いていただきました。
こちらのお料理にはル・レクチェという洋ナシをつかったドリンクで熱燗風にしていただきます。
さて、先ほどお椀が運ばれてきた頃、目の前のコンロには土鍋がセットされ、点火されています。まだ炊き上がっていませんが、蒸らしている途中のちょっと芯がある状態のご飯を一口食べさせていただきました。芯があっても美味しい!
続いて大寒卵というお料理。大寒の日に産んだ卵を使っています。
ペアリングはワインみたいな感じでした。ここまでドリンクはすべてノンアルですが、雰囲気のせいかちょっと酔っぱらったような感じがしてきました。
次のお料理は「海と大地」というお料理です。鮟鱇の身を揚げてあり、たっぷりの大根おろしと共にいただきます。鮟鱇というより、大根がメインのお料理です。私が大好きなあん肝も添えられていました。器が運ばれてきた後、だし醤油をくるりとかけに来てくれた女性がいたのですが、シェフの桑木野さんでした。突然現れてビックリしました。
ペアリングは梨とジンジャーを使っていて、ちょっとビールのようなテイストのドリンクでした。
お肉料理は妙高の短角牛とセリを使ったお料理でしたが、写真が上手に撮れていなくて残念。セリは根までいただけるよう調理されていました。ペアリングは紫蘇を使ったロゼワインのようなドリンクでした。
この後は里山十帖自慢のご飯です。さきほどまだ芯が残っている状態のご飯をいただきましたが、今度は蒸し上がっていて芯はありません。ただ私のお腹がもういっぱいでほとんど入らない状態です。ペアリングドリンクの量はそんなに多くないのに食事より飲み物でお腹が膨れたような感覚でした。ということで、ご飯は一口だけお味噌汁と共にいただき、残りはおにぎりにしていただきました。食後のデザートも入りそうになかったので、おにぎりと一緒にお部屋に運んでいただきました。こういうサービスがあるのは本当にありがたいです。
上の写真の箱の中がおにぎりです。里山十帖のお米は魚沼産こしひかり。その中でも米仙人と言われている清さんという方の手によるお米で、冷えても美味しいというのは本当にその通りでした。
朝食
朝食は7時半/8時/9時スタートの中から選びます。時間になってレセプション等に行くと係の方がテーブルに案内してくれます。私は半個室希望だったので、朝食も個室へ。夕食の時とは違うお部屋でした。
最初にいただくのは胃腸を目覚めさせるための無農薬人参ジュースかとおもいきや、この日は大沢の清水の白湯とはちみつでした。里山十帖では養蜂も営んでいるのです。
コンロの土鍋には出汁がはってあり、自分でお味噌汁を作っていただきます。
ちゃんと作り方は詳しく説明があります。具材が豊富で全部入れたら具沢山のお味噌汁ができました。お味噌が美味しかったので、ショップで買って帰りました。
テーブルの上には納豆、お漬物など発酵食品が並びます。メチャ美味しい。器もステキです。
その他ご飯のお供には卵焼き、イワシなどなど。
ご飯は土鍋で用意され、つやつやなご飯に生卵をかけていただきます。私は卵かけご飯はWelcomeですが、外国人の方はどうなんだろうと思ったりしました。私のアメリカ人の友人は、生卵は全くダメな人でした。
お味噌汁がたっぷりあったので、のんびり時間をかけて頂きました。
館内
里山十帖ではお部屋以外にもくつろげる場所が提供されています。
ラウンジ/ギャラリー 「hito - bito」
客室棟の1階にあります。コーヒーやティーバッグのお茶、冷たいお水の用意があります。デザイナーの手によるオシャレな家具や照明が置いてあり、居心地の良い椅子に座ってコーヒーを読みながら、本棚の本や雑誌を読むこともできます。滞在中何度か利用しましたが、他のお客さんに出くわさなかったです。
本棚で区切られたスペースはちょっと秘密基地っぽい雰囲気もあります。
私もこちらで自由人の雑誌を拝見しました。
ラウンジ「小屋組み」
レセプション棟のフロントロビーの2階にあるラウンジです。階段を上がるとラウンジスペースになっていて、太い梁が何本も渡っている屋根裏の構造を見ることができます。
こちらはコーヒーやお茶に加えて、クッキーやナッツの用意があります。デトックスティーノ用意があったので、いただきました。
夜はフロントがバーカウンターになっていました。
カウンター上の飲み物は飲み放題です。飲み放題だと「飲まなくちゃ損だ!」とばかりに群がるお客さんがいることありますが、里山十帖くらいの宿だとそんなお客さんがいないので、とても上質な空気が漂っている感じです。
ショップ
13室しかない宿にしては、ショップの面積が大きくてびっくりしました。それもそのはず、館内で見かけたチェアなどの家具も販売されているのです。
アクセス
公共交通機関の場合、最寄り駅は上越線の大沢駅です。新幹線が停車する越後湯沢駅から在来線に乗り換えて2駅目です。1日1往復無料の送迎車があります。
まとめ
期待以上の上質な宿でした。お部屋のデザインも素晴らしく、雪国だからこその保存食や発酵食を活かしたお料理もとても良かったです。是非また泊まりに期待宿でした。宿泊されているお客さんも皆さん上品な感じでマナーも良く、居心地がとても良かったです。先日泊まった1泊18,000円くらいの宿だと、ラウンジのテーブルに足乗せて大声でしゃべり込んでいるオヤジ達がいて閉口しましたが、そういうお客さんがいないというのは、精神的にもとてもリラックスできます。
子供は不可ではないですが、泊まれる部屋が限られます。基本的には大人の宿と言えます。
離れを除く12室のうち、巻機山を望むマウンテンビューのお部屋が6室、巻機山とは反対側のお部屋はフォレストビューです。私はマウンテンビューが良かったので、6室の中からどの部屋にしようか考えるのですが、ひとり旅なので広さはそんなに必要ありません。また室内で階段の上り下りが発生するメゾネットよりは、平屋の方がありがたいのです。そうなるとお部屋は4室のみです。お部屋を指定して予約できるのはとても良いですね。眺望や居心地の良さはとても大切です。
里山十帖の周辺は、冬はすっぽり深い雪の中ですが、グリーンシーズンは散策したり、いろいろとアクティビティもあるようです。次回はそうしたアクティビティに参加しながら楽しむのも良いなと思いました。
お値段はちょっと高いけれど、これだけのお部屋と食事とサービスならば納得できるし、ありがたいことに私が泊まった時には、ひとり旅プランで通常よりかなり割り引いた料金で泊まれたので、助かりました。ひとり旅は倍額です、だとちょっと手が届かない宿になってしまいますが、このひとり旅プランが続けばまた是非泊りに行きたいと思います。公式サイトからの予約だとチェックアウトの時に1年間有効な割引券がもらえます。額面は2人で泊まった時の割引額で、1人泊の場合は2500円の割引です。