温泉好きなら誰もがご存じの乳頭温泉「鶴の湯」。日本人にも海外からのお客様にも絶大な人気を誇る秘湯の宿は、予約が取りづらい宿でもありますが、ラッキーにも12月の平日に人気の本陣というお部屋に宿泊できたので、ご紹介します。一人旅でも人気のお部屋に泊めて下さる懐の深さには本当に感謝です。露天風呂の足元湧出泉を含めて異なる泉質の源泉が複数あり、秘湯の宿らしい宿の雰囲気、お食事の内容、おもてなし、どれをとっても秀逸で、人気ナンバー1の秘湯にも納得の宿でした。2020年12月の旅で初めて泊まった後、2021年4月と9月にも宿泊しています。
宿の概要
鶴の湯は秋田県にある乳頭温泉郷にある宿で、乳頭温泉郷の中で最も歴史のある宿です。温泉郷の中の宿ですが、鶴の湯周辺に温泉街はなく、山道の奥にポツンとたつ1軒宿です。そこがまた秘湯感を醸し出しているのかもしれません。宿の送迎車から降りると目の前にはこの景色。ここは江戸時代か?と思うようなたたずまいです。下の写真の左側の長屋のような建物が人気の本陣というお部屋です。5部屋あります。
上の写真は12月に訪れた時のもので、まだ建物の前にかまくらを作れるほどの雪ではありませんでした。また4月に訪れた時にはすっかり雪はなくなっていました。
送迎バスを下りたら、本陣の前を通って、事務所の帳場でチェックインの手続きです。バスでつく人が一斉に手続きするので、事務所の中が混み合います。
到着時は湿った雪が降る日でしたが、事務所の出入り口には貸し傘が用意されていたので、自分の傘を濡らす必要はありませんでした。ちょっとした心遣いですがありがたいことです。足元は長靴を貸してくれます。私はゴアテックスのトレッキングシューズなので長靴は使用しませんでした。間違えて他の人の長靴履いちゃっても、履いて行かれちゃっても嫌なので。実際朝食の時に、長靴履いて行かれて困っているお客さんの姿を見かけました。
お部屋は洗面・トイレ付きの本陣・新本陣・東本陣と洗面トイレなしの1~3号館で部屋数は全部で30室。本陣にはすべて囲炉裏がついていますが、新本陣・東本陣は一部の部屋に囲炉裏があります。今回はこの宿に5部屋しかない本陣に宿泊することができました。なんてラッキー。
本陣の客室
帳場で宿帳の記載が終わると、順に係の人がお部屋に案内してくれます。今回のお部屋は本陣5というお部屋でした。ガラリと入り口の引き戸をあけると、小さな土間の向こうに畳の客間があり、その奥に洗面とトイレがあります。下の右の写真の通り、客間の照明は石油ランプだけでなく、電球もあり、そんなに暗くはありません。
囲炉裏には夕方になると炭が入ります。部屋の壁には、炭火が赤く燃える時に一酸化炭素が出るので顔を近づけないように、という注意書きもありました。
夕方には石油ランプも配られます。
洗面所ではちゃんとお湯がでるし、トイレはウォシュレット。鶴の湯の中でも最も古い建物ですが、室内の設備は大変快適です。
携帯の電波はdocomoだけですが、Wifiが利用できるのには驚き。本陣は古さがウリなので、もしかしてコンセントがないのでは・・・と心配していたのですが、2口用意されていて、スマホなどの充電も問題ありませんでした。
浴衣のセットは、浴衣、ひざ丈の丹前、お風呂で使うタオル、バスタオル、ビニールポーチ、歯ブラシです。お布団はセルフで敷きます。温泉入ってゴロゴロしたい時には自由にお布団敷けるのは助かります。
お茶は緑茶の茶葉のみ。お菓子は「あんもろこし」で、この辺りのお菓子のようです。お湯は保温機能のみのポットに入ったものが用意されていました。
本陣は扉に鍵がありません。部屋の中にいる時に鍵をかけたければ、心張棒でつっかえ棒をします。夕食が終わるまでは炭火や石油ランプが配られたりするので、心張棒はない方が宿の方は助かると思いますが、中には客室だと思わずに見学のつもりで扉を開ける人もいるようなので、私は部屋にいる時はいつも心張棒を使っていました。
表側の窓には網戸がなく、夏場は虫が入るかもしれません。カーテンはないけれど、すだれが目隠しになります。雨戸があるので、完全に外からの視線を遮断することも可能です。奥の洗面所の窓には網戸もあれば鍵もついていました。
出入り口の心張棒は部屋の中にいる時にしか使えませんから、お風呂に入る時など部屋の外に行く時には鍵をかけられません。貴重品は部屋に用意された袋に入れて帳場に預けます。宿の中に自販機があるので、小銭は残しておくのが良いです。
現金やカードは帳場に預けましたが、スマホは手元に置いておきたいです。が、部屋に置きっぱなしにしておくのも不安だったので、お風呂に行く時にも持ち歩きました。お風呂も脱衣籠に入れておいてなくなると不安だったので、今回の旅にはマイ洗面器を持っていきました。
新本陣のお部屋
2021年4月に夫婦で宿泊した時には、新本陣のお部屋に泊まりました。新しいだけあって、広縁がついたり床の間があったりして広く感じます。ただ囲炉裏がある部屋とない部屋があり、私たちが宿泊したのは囲炉裏がないお部屋でした。鍵も普通の鍵です。
温泉
鶴の湯の楽しみはたくさんの温泉です。異なる泉質の源泉が複数があり、どのお湯も24時間楽しめます。下の写真は日帰り入浴でも利用できるお風呂の案内図です。宿泊者はこれ以外に、内湯と貸切風呂に入れます。どのお湯もとても温まり、お風呂からあがって暖房の効いた部屋に戻ると、窓をあけて冷たい空気を入れたくなるほどでした。
内湯
内湯は宿泊者専用です。チェックインしたら真っ先に行くと、独泉でした。湯船は3人入ったらいっぱいというサイズなので、先客が3人入っていたら少し時間をずらすのが良さそうです。
洗い場が2人分あります。シャワーもあります。脱衣所にはドライヤーの用意がありました。
鶴の湯には複数の源泉があるのですが、内湯には「白湯」が注がれているようです。泉質は「含硫黄-ナトリウム・カルシウム-塩化物・炭酸水素塩温泉(硫化水素型)」とありました。確かにぷーんと硫黄(正しくは硫化水素)の香が漂います。温泉らしくて良いです。
日帰りでも利用できる白湯と黒湯
内湯で使用されている白湯は、日帰りでも利用できます。日帰り利用の場合は、こちらの橋を渡った先の湯小屋で利用します。こちらの湯小屋には白湯と黒湯の内湯と、女性専用の露天風呂があります。
白湯と黒湯はこんな感じ。いずれも湯船はそれほど大きくはないです
黒湯はあたたまりの湯の別名があり、湯冷めしにくいお湯です。泉質は「含硫黄-ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉」とありました。
女性専用の露天風呂
鶴の湯の写真は混浴露天風呂が雑誌などによく紹介されていますが、広々とした女性専用露天風呂もあり、24時間いつでも入れるて女性客にも優しい宿です。黒湯の脱衣所を利用して黒湯の内湯を経由して行くこともできますし、露天風呂にも脱衣所があるので、黒湯の内湯を経由せずとも楽しむことができます。雪景色の中一人で露天風呂に使っていると、本当に静かで幸せな気持ちになります。こちらの露天風呂の底は砂利で、ところどころプクプクと足元からも温泉が湧いているのです。
中の湯
中の湯は名物混浴露天風呂への入り口でもあります。下の写真の奥の湯小屋が中の湯の内湯。この内湯を経由して名物の露天風呂に行くことができます。
混浴露天風呂
混浴ですが、女性の中の湯の内湯から行く「姫の道」は、ちょうど大きな岩が目隠しの役割を果たしてくれていて、にごり湯の中に沈んでしまえば何も見えないので、混浴のハードルは低いです。お湯に体を沈めたまま、姫の道を出て、反対側の岩が沈んでいる辺りに行きましょう。そのあたりがプクプク足元から湧いてくるスポットでした。
こちらの写真は宿の公式サイトやネット上・雑誌にたくさん紹介されているので、是非そちらをご覧ください。
宿の公式サイトはこちらです
無料の貸切風呂
宿泊客は無料の貸切風呂を利用することもできます。貸し切り湯は2つあり、空いていれば何回でも利用できます。扉の札を使用中に変えて、中から鍵をかけて入るシステムです。中にはカランとシャワーがあります。源泉は黒湯が使用されています。
お食事
お食事は伊勢エビとか黒毛和牛といった高級食材のお料理はありません。山菜やキノコ、イワナなど、素朴だけど秘湯の宿らしい食材と自家製の味噌で味付けた鍋などのお料理が提供されるですが、これがとっても美味しくて感動しました。
夕食
本陣に宿泊すると夕食は部屋食です。6時スタートです。お願いすればもう少し遅い時間にしてもらえますが、聞いたら「早い方がありがたいです」ということだったので6時でお願いしました。どの部屋もほぼ6時から夕食なので、お膳が運ばれてくるのは多少時間差があります。で、届けられるお膳がこちら。結構品数があります。
こちらは2020年12月に泊まった時のお品書きです。山の幸がたっぷりです。お品書きにないけど、おそばも出てきました。
お品書きの下に「他に山の芋鍋も付きます」とありますが、これがめちゃくちゃ美味しいのです。お芋をすってつなぎなしでお鍋に落としたものがいくつも入っていて、もちもちとした食感も良いです。セリやキノコ、豚肉などが入り、自家製の味噌の味付けも最高でした。
テレビもないので、1人静かにいただくのですが、炭火の燃える音や、石油ランプの暖かい灯のしたでの夕食は秘湯らしさを堪能できる素晴らしい時間でした。
朝食
朝食は広間でいただきます。7:00~8:30の好きな時間に広間に行くのですが、全員の分を一度に用意できる席数はないので、かちあうと「10分後に来てください」と言われることもあります。この辺りは譲り合って、あまり時間にぎちぎちと縛られずに過ごしましょうという気持ちが大切なんだなと思いました。広間はこんな感じです。
朝食も山の秘湯らしい献立でたいへん美味しくいただきました。
広間での朝食なので、見ず知らずのひとと同じ空間を共有することになりますが、3人グループの人も横に並んで座って食べるせいか、また一人旅の人も多いせいか、皆さん静かに召し上がっていました。
アクセス
最寄りの鉄道の駅は田沢湖駅。東京からなら秋田新幹線が便利です。結構立派な駅です。鶴の湯の送迎バスは「アルパこまくさ」までバスに合わせてきてくれるので、乗車前に何時のバスに乗るかを鶴の湯に電話して伝えておきます。
田沢湖駅からは羽後交通の路線バス「乳頭温泉」行に乗車します。バス停は駅舎を出たら右手すぐの場所にあります。下車する「アルパこまくさ」までは630円です。バス降車時に現金精算もできますが、駅舎内のバス案内所の券売機で乗車券を買うこともできます。乗車券を購入しておく方が降車時にもたつかず、他のお客さんの迷惑にもならないです。が、この日は変なところにコインを投入したお客さんがいて、券売機が使えなくなってしまい、結局バスから降りる時に現金で払いました。
バス停はこちら。今年はコロナの影響で乳頭温泉行のバスの本数は減便となっていました。12月の平日でしたが、このバス停には20人くらいの人が並んでいまして、乳頭温泉郷の人気がうかがえます。ということは週末はもっと行列するのかもしれないです。バスは大型バスが来たので、2人掛けに1人で座れました。
バスの時刻表は羽後交通のサイトで確認できます。「乳頭線」の時刻表を見て下さい。
この時期に鶴の湯に行きたかったのは雪見温泉を楽しみたかったからなのですが、田沢湖駅を出た時にはまったく雪がなく、途中の田沢湖付近にも雪はなくて雪見温泉は無理なのかな・・・と思っていたのですが。標高があがるにつれ周囲は雪景色に。
田沢湖駅を出て40分弱でアルパこまくさに到着。バスはここが終点ではないので、寝過ごさないように気を付けましょう。この日はほとんどの人がここで下車。つまりほとんどの方が鶴の湯のお客さんということです。アルパこまくさには鶴の湯のマイクロバスが待っているので乗り換えます。帰りはこの逆の手順です。
マイクロバスはしばし国道を乳頭温泉方面に向けて走りますが、途中の鶴の湯温泉入り口から山道に入ります。さすがに雪道を走る装備がないとこの道はきつそう。
途中鶴の湯の姉妹館である山の宿を経由し、アルパこまくさからは20分程度で憧れの「鶴の湯」に到着です。田沢湖駅からだと1時間くらいバスに揺られますが、高まる秘湯への憧れの気持ちがあるからか、あまり長くは感じませんでした。
「お先にトクだ値スペシャル」を使って行こう
鶴の湯は宿泊費はそれほど高くないですが、なんせ東京から遠いので、移動にお金がかかります。JR東日本の「お先にトクだ値スペシャル」はJR東日本の新幹線に半額で乗れるという大変お得なキャンペーン。このキャンペーンが2021年4月から9月まで延長されるとのこと。このキャンペーンを利用しない手はありません。ただ「お先にトクだ値スペシャル」は乗車区間が限定されていて、東京-田沢湖駅間では設定がありません。そこで、秋田まで購入し、田沢湖で途中下車する手が良さそうです。
通常価格: 東京-田沢湖 16,470円
「お先にトクだ値スペシャル」: 東京-秋田 8,950円
※「お先にトクだ値スペシャル」は期間限定なので、いつも発売されているわけではありません。
予約は電話で
公式のWebサイトはありますが、インターネットでの予約はできず、電話をかけるしか方法はありません。予約は6か月前から受けているそうで、人気の本陣はすぐに予約が埋まるようですが、時にはキャンセルも出るようで、8月に電話したら12月の平日の本陣がとれました。電話をかけるのは手間ではありますが、その手間をかけてでも泊まりたい宿です。
こんな人におススメ
しんしんと雪が降る情景を楽しみつつ、冷えた体を温泉で何度も温め直し、豪勢ではないけれど、地の食材を味わいたい、なんていう方にはもうたまらない宿です。こんな秘湯感たっぷりの山の中の宿なのに、電気もあるし、wifiもあるし、ネットしながら部屋でゴロゴロ、時々温泉、なんていう滞在も可能です。周囲にコンビニはもちろん飲食店はないので、夜は温泉街で楽しみたい、という人には向きません。
まとめ
この宿は2020年に私が宿泊した宿の中で文句なしのナンバー1の宿でした。秘湯の宿ですから、高級旅館のような露天風呂付客室とか高級食材が並ぶお料理ではないのですが、お湯・お食事・おもてなしどれをとっても訪れる人が抱く秘湯の宿へのイメージを見事に体現している宿でした。泊まってみると、なるほど、人気ナンバーワンなわけだわ、と納得でした。そんな宿に1人でも泊めていただけるし、人気の部屋も一人泊OKというのは本当に本当にありがたいことで、この点も私の評価が高い理由でもあります。
日帰り利用の時間帯は、混浴風呂で騒いでいるグループがいたり、子供がプール状態で遊んでいるのに注意もしない親がいたりと、多少喧騒感がありましたが、宿泊客だけになると本当に静かで、雪の積もる音が聞こえそうでした。お客さん同士も、他のお客さんの静けさを邪魔しないようにお互い気を付けている印象です。
可能なら連泊して、湯めぐりバスで乳頭温泉郷のお湯をまわってみたいです。乳頭温泉郷の湯めぐりはこちらのサイトをご覧ください。
関連リンク
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