鉄道旅が好きな私は、廃線跡にも関心があります。北海道のタウシュベツ川橋梁は連なるアーチと周囲の大自然の景色との調和が素晴らしく、皆さんも写真などで見かけたことがあるのではないでしょうか。
私もそうした映像に魅せられて、実物を見たいものだと思っていました。タウシュベツ川橋梁は北海道の道央近くの糠平ダムのダム湖の中にあり、時期によって橋脚まで現れたり、すっぽり水没して見えなくなったりして、幻の橋などと呼ばれています。水没を繰り返すため毎年劣化が進み、アーチがつながった形で見られるのもあとわずかと聞き、2024年5月訪れることにしました。大自然の中に取り残された橋梁には旅情をかきたてられるものがありました。
近くの糠平源泉郷は源泉かけ流し宣言をしている宿もあり、気持ちの良い温泉が楽しめるので、温泉とセットで出かけるのがおススメと思います。
士幌線
士幌線は帯広と十勝三股を結ぶ路線で、路線延長は78kmほどです。1925年に帯広から士幌の間で営業を始め、その後徐々に道央に向かって延線され、1939年に十勝三股までの営業が始まりました。
十勝三股ってどこ?という感じだと思います。以下のマップのように、帯広から旭川の方に向かって北上したところにあります。
十勝三股付近は林業の一大生産基地で、開業当時の士幌線で森林資源や人を多く運びましたが、やがて資源が枯渇したり、国道が開通したことで、1987年3月22日をもって士幌線は全線廃線となりました。当初の計画では十勝三股の先、三国峠を越えて旭川まで延線する計画もあったようですが、実現せずに終わりました。
帯広の中心地で士幌線の痕跡を見ることはほぼありませんが、タウシュベツ川橋梁付近では、線路があった所が遊歩道になっていたり、数多くあった橋梁が残っていたり、廃線マニアでなくても楽しめるようになっていました。
タウシュベツ川橋梁
士幌線跡に残されている橋梁の中でもダントツに有名なのがタウシュベツ川橋梁です。大自然の中に佇むアーチが連なる白い橋の姿は本当に素晴らしい。この橋は士幌線の開通に合わせて作られたコンクリート製の鉄道橋で、1937年に完成しました。
その後、糠平ダムが1955年に完成したことで、士幌線が新線に付け替えられ、タウシュベツ川橋梁は使用されなくなり、糠平ダム湖内に放置されたのです。使用されなくなってからもう70年近く経っています。
ダム湖は冬になると凍結します。橋のひびなどから橋の中に入り込んだ水分も凍って膨張し、春になると溶けることを繰り返すことで、橋は外側からも内側からも劣化が進みます。ガイドさんの話では、もう今年はアーチが途中で途切れてしまうのでは、と心配していたそうですが、かろうじてつながっています。
外側のコンクリートは崩落し、中に詰めてあった石もほとんど落下した状態。
私が訪れたのはGWあけの5月中旬でした。この時すでにダム湖の水がたまり始めていました。
風がなければ逆さアーチ橋が水面に映るのだとか。特に朝方が撮影チャンスだそうで、早朝ツアーもあります。こんなタウシュベツ川橋梁も見てみたいものです。
対岸に行くには川を横切らなくてはなりません。ツアーでは長靴を貸してくれるので、ジャブジャブと川の中を渡りますが、水量が増えてくると渡れない時期もありそうです。
タウシュベツ川橋梁への行き方
タウシュベツ橋梁に一般人が自力で行くのはちょっと大変。なぜなら橋梁まで通じている林道の入り口には鍵がかかっていて、この鍵の予約をし、道の駅に鍵を借りに行きその後返却も必要です。鍵の本数に限りがあるので、希望した日に鍵がない、ということもあり得ます。詳しくはこちらをご覧ください。
このめんどくさい手配をしなくて済むのがガイドツアーです。
NPO法人ひがし大雪自然ガイドセンターのツアーを利用する
個人がタウシュベツ橋梁に行くにはこちらのツアーを利用するのがおススメです。集合場所は糠平(ぬかびら)温泉郷にある糠平温泉文化ホールです。ここから車に乗ってタウシュベツ橋梁に向かいます。詳しくはこちらのサイトをどうぞ。
ここが林道の入り口で、鍵がかかっています。ガイドセンターのツアーに参加する場合は、ガイドさんが鍵を借りておいてくれます。2024年度から鍵が変わったそうです。以前の鍵は模倣品が出回っていたのだとか。そんなことまでして来る人がいるとは驚きです。
林道は砂利が敷かれていて、車に乗っているとガタガタ走って行く感じです。個人の車で行くとパンクが怖いかも。
途中に鹿がいました。運が良いと(?)熊もいるそうです。
林道の入り口からタウシュベツ橋梁近くの駐車場までは約4キロ。
車を下りたら湖に向かって100mくらい林の中を歩きます。ここも雨が上がった後などはドロドロな感じです。長靴でないと厳しいでしょう。足元には多数の流木もありました。ダム湖の水位が上がるとこの辺りまで水が来ることもあるそうです。
林を抜けると一気に視界が開けます。右側にはまだ渇水状態の糠平湖。目の前にはお目当てのタウシュベツ川橋梁がありますが、わかりますか?私は最初、あれ?タウシュベツ川橋梁はどこ?と思ってしまいました(笑)
ここでガイドさんから注意事項などを聞き、45分間の自由行動となりました。ガイドさんについて歩くといろいろと説明が聞けるので、初めて行く時にはガイドさんについて歩くのがおススメです。
2024年5月に訪れた時にはまだ橋が完全に見えている状態、つまりダム湖に水があまりない状態です。こちらはダムの上流方向。対岸の奥の方にはまだ雪が残る山並みが時々雲からのぞいていました。ウペペサンケ山という山です。
ガイドツアーでは糠平源泉郷に8時50分集合。長靴に履き替えて車で出発し、タウシュベツ橋梁到着は9時半くらいでした。45分の自由時間が終了する頃、大手旅行社のツアー客が到着して賑やかになりましたが、ガイドツアーだと全部で15人にも満たない人数なので、静かに橋を見学できるのも良いと思いました。
旅行社のツアーを利用する
クラブツーリズムや阪急旅行社のツアーでタウシュベツ川橋梁を組み込んだツアーが用意されています。移動手段や宿を旅行社が手配してくれるので、気軽に参加できます。私が訪れた時にも、ミニバンタイプのタクシー5台を連ねて来ていました。
ツアーだと釧路湿原や然別湖なども組み込んだ2泊3日になっていて、北海道の大自然を楽しめるコースだなと思いました。翌月の申し込み状況を見ましたが、ほとんどがキャンセル待ち状態。すごい人気です。
タウシュベツ川橋梁以外の士幌線跡
帯広から十勝三股を結んでいた士幌線跡を帯広付近で見かけることはありませんが、タウシュベツ川橋梁付近では他のアーチ橋や駅の跡を見ることができます。私が利用したガイドツアーで訪れる場所もあれば、糠平源泉郷に泊まって散策しながら見に行ける場所もあります。
幌加駅
士幌線の線路はほとんどが撤去されていますが、幌加駅前には線路が敷設されていました。昔から残っていたのか、観光資源として敷設したのかは聞き洩らしてしまいました。こちらの駅の訪問はガイドツアーに含まれています。5月は新緑が美しい。夏は両脇の蓮が人の背丈ほどになるそうで、草刈りもガイドセンターの皆さんがされているそうです。
ポイントの切り替えは手動で今も動かすことができます。
新緑が美しく静かな空間です。
幌加駅の案内板の周囲は士幌線のレールを活用しているそうです。
今ではひっそりと林の中に佇む幌加駅ですが、士幌線が運行していた頃は駅前には商店や住宅があり結構な人が住んでいたそうです。まだ100年も経っていないのに、全く町の痕跡はありません。駅の近くには駅長さんや駅員さんの住宅の基礎部分が確認できます。手前のコンクリートの四角はトイレだったところ。中には便器も残っていました。
幌加駅近辺は熊の出没が多く、幌加駅近くの除雪ステーションにいた方から、近くで熊が目撃されたから気を付けてね、と声を掛けられました。ひがし大雪自然館に掲示されていた目撃情報の地図も、確かにこの辺りにいっぱい赤い磁石がありました。
2023年の北海道内での熊の駆除数は1422頭で過去一番だったそうです。鹿くらいなら目の前にいてもいいけど、熊には会いたくないです。
第五音更川橋梁
幌加駅跡を見に行く時に車を停めた除雪ステーションから、幌加駅とは逆方向(旭川方向)に300mほど行くとあります。アーチの高さが私達は国道の「滝の沢橋」のはじっこに車を停めて、車の中から見ました。
場所の確認はこちらからどうぞ。グーグルマップにも国道からの橋が写っていました。
五の沢橋梁
こちらも国道から見ました。先ほどの第五音更川橋梁に比べると小さな橋です。ガイドさんに教えてもらわないと気づかないくらい。
三の沢橋梁
こちらの橋も車窓から。アーチの大きな橋でした。
この橋の近くには駐車場もあり、足漕ぎ式のトロッコ列車も走っているようです。
糠平川橋梁
こちらの橋はガイドツアーとは別に、自分で温泉宿から歩いて行きました。ぬかびら源泉郷にあるネイチャートレイルの途中にあります。
温泉街から糠平川橋梁に行くには「ひがし大雪自然館」を目指すとわかりやすいです。下の地図で黄色のルートは最初は舗装路ですが、気象観測所の辺りからネイチャートレイルとなり林の中を歩いて、糠平川橋梁の橋の下に出ます。青いルートは士幌線跡を歩くルートで、橋梁の上に出ます。橋梁に階段がついていて、橋の上と下の行き来が可能です。私は黄色のコースで向かい、青いルートで戻ってきました。
こちらが「ひがし大雪自然館」です。小さな温泉街の施設としてはとても立派な建物です。
まずは黄色のルートを歩きます。「ひがし大雪自然館」の前の道路には分かりやすい案内がありました。
林の中に入ると小川を渡る箇所もあります。川の上に顔を出している石の上を歩きます。手すり代わりのロープがあり助かります。
糠平川橋梁です。4連のアーチ構造をもつコンクリートの橋です。糠平ダムができたことで、付け替えられた新線の橋梁です。一方冒頭に紹介しているタウシュベツ川橋梁は、新線の付け替えにより使われなくなった橋なんですよね。
橋の横に階段がついているので、橋の上に上がることができます。橋の上に上がると、そこは士幌線のレールが敷かれていたルートです。
士幌線の跡は遊歩道として整備されています。誰も歩いていなくて熊がでるといやだなと思い、私はここから士幌線跡を歩いて引き返しました。
糠平駅跡
士幌線には糠平駅という駅がありました。この駅が私が宿泊した糠平源泉郷の最寄り駅になります。ひがし大雪自然館近くから線路が敷かれていて、この線路をたどって行くと糠平駅跡に出ます。
昔ながらの腕木式信号機も線路脇にあったりして。
糠平駅のホームはないけど、駅名票が静かにたたずんでいました。
こちらには車掌車が鉄道資料館もあります。
糠平駅跡付近のレールの上を走るトロッコ列車(と言っても自分で漕ぐタイプ)が曜日によっては運行されているようです。
今回の旅の全体像
今回の旅は3泊4日で計画しました。初日は羽田から帯広まで飛行機を利用し、帯広からは路線バスを乗り継いで糠平源泉郷へ。宿泊は個人客に人気の中村屋さんです。期待以上・お値段以上の宿でした。私はこちらの宿に2連泊しています。
糠平源泉郷到着の翌日、つまり旅の行程としては2日目にタウシュベツ川橋梁を訪れるツアーに参加しました。午前中のツアーに参加しています。
3日目は宿をチェックアウトして一旦帯広駅まで路線バスで戻り、今度は然別湖に1時間40分路線バスに乗って移動し、湖畔の宿に宿泊しています。こちらの宿も温泉らしい温泉に入浴できるのが良かったです。
然別湖の宿をチェックアウトする前の早朝に、カヌーで然別湖を楽しみました。この時期の北海道は朝4時くらいはもうすっかり明るいので、6時集合でも全然問題ないのです。参加者は私だけで、思いがけずプライベートツアーになりました。
まとめ
前から行きたいと思っていたタウシュベツ川橋梁を訪れることができ、かつ宿泊した糠平源泉郷の宿もとても居心地が良い宿で、私としては充実度万点の旅となりました。
タウシュベツ川橋梁は本当に劣化が進んでいて、アーチが連なっていられるのもあと僅かという感じもします
写真で見ると冬のタウシュベツもステキです。冬は糠平湖をスノーシューを履いて歩いて横断して見に行くのだそうで、行ってみたいと思いました。
大自然にたたずむタウシュベツ川橋梁はインスタ映えしそうですが、意外にもお客さんは日本人ばかり。ガイドさんに聞いてもインバウンド客は少ないそうです。外国人には廃線跡って興味ないのかしら?
今回は帯広駅から糠平源泉郷までの道路がどんな具合かわからなかったので、路線バスで糠平源泉郷に行きました。鹿との衝突が怖かったのですが、バスで通ってみると大丈夫そうな感じだったので、次回はレンタカーでも良いかなと思います。
糠平源泉郷は上士幌町という所にあります。ひがし大雪自然館も立派でしたが、途中の道の駅も新しくて立派なんです。そんなに人口が多いわけでもないこの町で、どうして立派な施設が建設されているか、そこがちょっと不思議でした。
関連リンク
今回タウシュベツ川橋梁に行くためのツアーはこちらのガイドセンターが運営しています。
私が参加したツアーのガイドさんは、糠平源泉郷にお住まいで、プライベートツアーも実施しています。
この地域の自然についての展示が充実している自然館。建物が新しくて立派です。
士幌線にはたくさんアーチ橋がありました。その橋の保存をしている団体で、ガイドマップにはたくさんの橋の位置が記されていました。
帯広駅から糠平源泉郷まではノースライナーと言う特急バスを利用しました。三国峠経由のバスが糠平源泉郷を通ります。