創業250年以上と言う歴史ある温泉宿の「金具屋」は長野県渋温泉にあります。木造4階建ての建物が立派で、なるほど千と千尋に出てくる油屋に似ているかもと思いました。「金具屋」は何と言っても泉質が異なる複数の源泉から供給されるお湯が素晴らしかったです。ゴールデンウィーク中の土曜日に2人で泊まって、1泊2食で1人税込み23,910円でした。
温泉街にそびえ立つ木造4階建て
「金具屋」 の創業は1758年と古く、「歴史の宿」というのもうなづけます。「金具屋」の建物はいくつかの建物から成り立っていますが、何といっても有名なのは、昭和11年に完成した木造4階建ての「斉月楼」でしょう。国の有形文化財に登録されている建物です。渋温泉街は道路が狭いこともあり、威容を放つといった感じ。思わず見上げてしまいます。
夜はライトアップされて、渋温泉街の名所の一つになっているようです。たくさんの観光客が写真をとっていました。
お部屋
フロントでチェックインした後案内されたお部屋は、残念ながら「斉月楼」のお部屋ではなく、隣にある「潜龍荘」という建物の「高千穂」というお部屋でした。「潜龍荘」の建築も古く明治41年の完成で(完成当初は「潜龍閣」と呼ばれていた)、2001年に改装されています。
客室は本間は8畳で奥に広縁、手前に踏み込みと次の間があり、広縁の向こうには庭園になっています。
広縁側から入り口方向を見るとこんな感じ。ふすまの向こうの次の間は4畳半の広さがありました。
広縁には囲炉裏、洗面台、冷蔵庫があり、はじにウォシュレット機能付きのトイレがあります。灰皿が用意されており、部屋の中で喫煙できます。
下の写真の左端に写っている扉の中がトイレです。
部屋の設備とアメニティ
お茶とお菓子
ポットは保温機能がない普通のタイプなので、だんだんと温度が下がってきてしまいます。寝る前の交換もなく、翌日の朝に熱いお茶を飲もうとしたらかなりぬるくて残念でした。お茶っ葉は緑茶のみですが、食事処ではほうじ茶が提供されます。また夜に冷水のポットのサービスもありません。お値段の割に・・・という印象がありました。
お茶請けは温泉まんじゅうです。
冷蔵庫
冷蔵庫に冷凍庫はなく、昔からあるようなあらかじめ飲み物がセットされているタイプでした。結構ぎっちりつまっていて、外が買ってきたペットボトルを入れるにはスペースがあまりないかも。
洗面台
洗面台は水とお湯が別々の蛇口ですが、お湯はほとんどでません。部屋のお湯の蛇口には温泉が供給されていて、蛇口の先端にはいっぱい温泉の成分がついていました。なのでお湯が出たら本当に良かったのですが、全開にしてもぽたりぽたり程度でした。
ドライヤーは洗面台横に置いてありました。
コンセントはあるがWi-fiはない
部屋のコンセントは床の間やテレビの横、洗面所や次の間にもあり、数は十分です。ただ部屋ではWi-fiが使えません。ロビー付近にはフリーのWi-fiがありました。
浴衣類
浴衣とバスタオル、お風呂で使うタオルは部屋に用意されています。浴衣は普通の浴衣で色浴衣ではありません。この時期はまだ寒いので半纏と足袋の用意もありました。
その他
部屋の中には温泉関連の雑誌や本が置いてあります。
当然その中には「金具屋」が紹介されているからなのでしょうけれど、温泉好きだからこういう宿に泊まるわけで、雑誌類はくつろいでいる時に眺めるにはちょうど良かったです。
また、翌日の朝は新聞がサービスされました。
お茶とお菓子で一息ついたら、次は温泉に行ってみましょう。
温泉
「金具屋」に泊まって一番印象に残っているのが温泉です。3つの泉質の温泉を8つのお風呂で楽しめるのですが、どのお湯も素晴らしかったです。男女の入れ替え制の大浴場が2つ(浪漫風呂と鎌倉風呂)、男女別に存在する露天風呂が一つ。無料の貸切風呂が5つです。泉質の違いは見た目の色でわかりますから、誰でもその違いを理解できます。是非入り比べて下さい。ただたくさんお風呂があったので、今回は貸切風呂の2つと露天風呂には入りませんでした。
貸切風呂は予約制ではなく、空いていればいつでも入れる内カギ方式。この日は連休初日の土曜日でおきゃくさんがたくさんいそうだったので、必ず入れる大浴場は後回しにして、まずはあいている貸切風呂から回ることにしました。
貸切風呂の泉質
個々の貸切風呂を紹介する前に、貸切風呂の泉質をご紹介。貸切風呂の源泉は「金具屋第一・第二ボーリング」で、泉質は「含硫黄-ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩泉」です。pHは8.1で弱アルカリ性。メタケイ酸は1リットル中219.6mgと多く、入っているとお肌がツルツルしてきます。
貸切風呂 美妙の湯
斉月楼の4階にある貸切風呂です。木で造られた丸い浴槽でした。中に段がついていて、2人なら沈めますが、3人は難しいという広さでした。
最初熱かったのですが、まぜたら丁度良くなりました。蛇口には温泉の成分がこびりついていて、気分が上がります。実際ものすごく気持ちの良いお湯です。さすが源泉かけ流し。鮮度の良さを感じます。
洗い場は1か所あります。一方で脱衣所はかなり狭くて、2人で同時に着替えるのは厳しい広さでした。
貸切風呂 恵和の湯
続いて「斉月楼」の3Fにある「恵和の湯」も空いていたのではしご湯しました。貸切風呂は開いている時にどんどん入るのが入れるコツです。
こちらは石のお風呂です。浅間山の溶岩石を切り出して使用しているそうです。
こちらの蛇口にも温泉成分がびっしり付着していました。
先ほどの「美妙の湯」よりは脱衣所も浴槽も少しゆったりしていて、2人同時に着替えが可能な広さでした。
貸切風呂 斎月の湯
貸切風呂の中では最も広い浴室・浴槽・脱衣所のお風呂です。かつては「和予の湯」という名前でしたが、2018年全面改装をし「斎月の湯」というタイル絵の風呂になりました。 海に浮かぶ船の上から富士を眺めながら入る温泉、といったところでしょうか。
こちらのお風呂も蛇口からは常に源泉が供給されています。
浪漫風呂
ローマの噴水やアーチ型の窓にステンドグラスという洋風のお風呂です。昭和25年にできたお風呂ですが、何度か改修されて今の形になっているそうです。たまたま誰もいなかったので写真を撮ってみました。
貸切風呂とは源泉が異なり、こちらはにごり湯です。
源泉は中央の噴水からではなく、壁に設置された段々の仕組みを使って注がれています。
アーチ窓とステンドグラスが洋風な雰囲気を醸し出します。
こちらのステンドグラスは脱衣所と浴室の境の扉のものです。
浪漫風呂の源泉は「金具屋別荘」という名前の源泉です。泉質はナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩泉でpHは6.5という中性の温泉ですが、鉄のにおいがしました。
浪漫風呂は男女入れ替え制となっていて、到着した日の深夜までが女性専用になっていて、深夜からチェックアウトまでが男性専用となっていました。
鎌倉風呂
昭和11年に作られましたが、昭和52年に手を入れて今の形となったそうです。
すりガラスの窓が大きくとられていて、とても明るい印象のお風呂です。湯は渋温泉の大源泉、地獄谷荒井河原の湯と渋温泉温泉寺に湧く寺湯の混合だそうで、白い湯花が漂っていました。鎌倉風呂は他にお客さんがいたので撮影しませんでした。金具屋のHPの写真をお借りします。
温泉のまとめ
金具屋の温泉は源泉の違いがはっきりわかるので、いろいろと種類を変えて入るのが楽しいです。湯温は39~40℃くらいに感じました。私にはちょうど良くて、じっくりお湯の中につかっていられるのが良かったです。浪漫風呂は鉄のにおいがするにごり湯なので、「あ~温泉だわ~」という感じがして、何度か入ってしまいました。その分露天風呂は入らなかったのですが。温泉は素晴らしく良いお宿ですね。
またご当主による「源泉ツアー」が翌日の朝実施されていました。出発の都合で参加しませんでしたが、源泉を見る機会なんてそうそうないので、次回は是非参加してみたいと思います。
外湯めぐり
渋温泉には9つの共同浴場があり、宿泊客は無料で利用できます。共同浴場は原則として地元の人のためのものなので、普段は鍵がかかっていますが、宿のお部屋にこんな鍵が置いてあり、自分でカギをあけて入るスタイルのようです。外湯めぐりするまで時間に余裕がなかったので、こちらはまたのお楽しみにしましょう。
食事
食事は大広間でいただきました。今回の宿泊の中では温泉のインパクトが強くて食事は二の次という印象。そこが前夜の「積善館」とは異なります。
夕食
食前酒からデザートまで13品。品数もボリュームもたっぷりの夕食でした。多い夕食でした。メインの牛肉のお料理を標準のプランから牛しゃぶに変更しての食事でしたが、牛しゃぶだけでも十分なくらいの量でした。
食前酒はあんずのお酒。ノンアルコールの飲み物にはたいして変わったものはなかったので、特に注文しませんでした。
お造りは信州らしく信州サーモンの昆布〆。
土瓶蒸しの中身は、山伏茸というかわったキノコが入っていました。山伏の衣装のふさに似ているからこの名がついたようですが、確かにふさふさしています。
信州牛のしゃぶしゃぶ。お肉がとてもやわらかかったです。
最初に並んでいたお料理以外にも、揚げ出し豆腐が出てきたり、ご飯の前には信州とろろそばがでてきたりと、もうお腹いっぱいになりました。2品くらい少なくても良いので、お安いプランがあるともっと嬉しいです。
朝食
朝食も昨夜と同じ大広間でいただきます。「金具屋」の朝食はとろろがウリなんですね。
卵はお好みでとろろに入れて下さいとのことなので、入れてみましたが、これが失敗。なぜって、とろろがあまり濃くなくて、卵を丸々1つ入れると、とろろの味がわからなくなります。
我が家はたまに自然薯を買ってきて自宅でとろろ汁を作るのですが、その時にはめちゃ濃いとろろ汁なので、ちょっと物足りなかったです。箸ですくえないとろろでした・・・。ちょっと残念。食後にコーヒーはサービスされません。
有形文化財の建物
「金具屋」には国の有形文化財に登録されている建築物が2つあります。1つは温泉街にそびえ立つ木造4階建ての「斉月楼」、もう一つは食事をした大広間です。
斉月楼
長野の善光寺を手掛ける宮大工により、当時最高の材料と最高の技術を贅沢に使った建物です。斉月楼を支えるのは約15mの通し柱。ご当主の説明ではほとんど金具を使用せず、木と木の組み合わせで建っているそうです。(「金具屋」なのに金具を使っていないのですか?と突っ込もうかと思いましたが、館内ツアーに参加しているお客さんは40人くらいいたので断念。) 斉月楼の上棟式の写真が残っていました。釘やねじをつかわずとも、昔ながらの工法で地震の揺れにも耐えられる木造4階建てはできるのですね。
「斉月楼」には当時のご当主が気に入った技巧や建築様式がたくさんちりばめられています。こちらは階段の飾り窓。富士山に月というデザインです。階段の照明を月に見立てています。
こちらの宴会場の天井は「船底天井」という建築様式。和風な感じがします。
こちらの宴会場の窓枠はアーチ型。洋風な感じがします。
階段には水車の軸が用いられていたり。
床にも水車の歯車が埋め込まれていて、この辺りは当主の遊び心なのでしょう。
こちらは斉月楼1階の廊下。ちょっと遊郭を思わせます。
大広間
斉月楼と同じ時に完成した「大広間」も有形文化財に登録されています。写真ではわかりづらいのですが、壁と天井のつながりのところが「織り上げ天井」という様式になっています。洋風建築ですね。
実はこちらの大広間、昭和20年の大雪で今上の写真に写っている部分が倒壊してしまいました。倒壊しなかったのは大広間にある舞台の部分。写真と見比べると、天井のデザインが異なります。倒壊した昭和20年はまだ戦争中。男手を戦争にとられてしまい、雪下ろしができずに倒壊してしまったのだそうです。当時は足立区の学童が疎開していましたが、事前に避難して人的被害はありませんでした。倒壊部分は昭和25年に再建されています。
その他の見どころ
有形文化財以外の部分もなかなか見どころがあります。金具屋にはエレベーターがあります。つまりエレベーターがある建物は鉄筋コンクリート製。けれど、他の古い建物と違和感が出ないよう、鉄骨の建物もまるで古い木造建築にいるように意匠が施されています。
たとえばこの階段。木造建築のように見えますが、実は鉄骨の階段。
エレベータの扉はもちろん、壁も木造建築のような仕上げになっていました。
こうした和風建築に見える工夫も善光寺の宮大工さんによるものだそうです。
金具屋内の居人荘にはタイル張りの古い階段が使われていましたよ。ものすごい急傾斜ですが、この階段の上にも宿泊部屋があります。
まとめ
滞在を振り返って一番心に残るのは、温泉の泉質の良さです。どのお風呂も新鮮なお湯だな~と感じました。また浴室や浴槽にも歴史を感じさせるものがあり、古くからの温泉宿、という雰囲気を味わえます。前日に「積善館」に宿泊し、どちらも建物は同じような古い木造多層階建築で料金的にも似ているということもあって、ついつい比べてしまいます。私の個人的な印象は、食事とサービスは「積善館」、温泉は「金具屋」に軍配があがります。
「金具屋」のお料理は品数と量がとっても豊富なのですが、私には多すぎました。品数を減らして、もうちょっと質の高いものが出ると嬉しいかな。翌日の朝には新聞がサービスされましたが、うーん、新聞よりコーヒーの方が嬉しいかも。「金具屋」のサービスで気になったところも。チェックインしてから部屋に案内してくれる方がちょっとぶっきらぼうで、自分の説明したいことをどんどん説明していく感じで質問しても聞いていない。冷水のサービスがなく、ポットのお湯の交換もない(積善館にはあった)。お部屋でWi-fiが使えない(積善館にはあった)。けれど、こういうマイナス点を補ってあまりある温泉の質なのでした。源泉ツアーなるものに参加してみたいので、もう一回は泊まってみたいです。けれどそれ以上は別の宿でも良いかな。泉質が私好みのお湯を持っている小ぶりな旅館に泊まるのもありだと思いました。
些細なことですが、館内に売店はなく、温泉街で是非お買い物を、とのこと。なるほど、温泉街全体を守っていくための工夫なのですね。昔ながらの温泉街と素晴らしい源泉をこれからも守っていってほしいな、と思いました。
「油屋」のモデルのはしご
渋温泉の「金具屋」に宿泊する前日は、群馬県四万温泉の「積善館」に宿泊しました。「金具屋」「積善館」ともに木造多層階建築で有形文化財。そしてともに千と千尋の神隠しに登場する「油屋」のモデルになったのでは?と言われる宿。
今回はこのモデル宿をはしごしたわけです。「積善館」も素晴らしい温泉宿でした。宿泊記はこちらです。
公共交通機関ではしごするのは難しいので、ブログのタイトルには反しますが、車での旅です。四万温泉から渋温泉へは、国道最高地点がある国道292号線の「志賀草津道路」で絶景ドライブを楽しみながら移動してくるはずでしたが、4月末というのに寒波襲来で雪と凍結による通行止めになってしまいました。そのため四万温泉から渋温泉まではぐるっと大回りを余儀なくされ、絶景を楽しめなかったのですが、渋温泉をチェックアウトした後の正午に通行止めが解除となり、無事絶景ドライブを楽しめました。四万温泉でなくても、万座や草津と渋温泉という組み合わせもこのルートで可能です。参考にしていただけたら嬉しいです。
湯田中渋温泉郷のその他の宿の宿泊記
湯田中渋温泉郷は古くから温泉街が広がり、泉質も良いので、何度か訪れています。
湯田中温泉 加命の湯
客室数6室という小さな宿ですが、客室は広く、日本庭園を囲むように配置されています。夕食は有形文化財のお風呂が有名な「よろづや」さんでいただくプランと、フレンチのレストランでいただくプランがあります。女将さんとご主人の気配りが行き届いている宿です。
安代温泉 安代館
昔からの温泉旅館らしい宿です。家族経営できさくな女将さんのおもてなしと、ご主人と息子さんが作る郷土料理がとても美味しいです。夕食は部屋食。たくさんのマンガが用意されているので、寒い時期に熱々の温泉からあがってマンガ読んで、ご飯食べて、また温泉に入ってを楽しみたい宿。