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田辺朔郎氏の偉業を訪ねて。びわ湖疏水船で行く紅葉の京都 その1 絶景の船旅

田辺朔郎という人物は、日本の土木技術史では大変重要な人物なのに、私がこの人の名前を知ったのは今年の6月のこと。初めて船で京都に行った時のことでした。船で京都?と思われる方も多いでしょうけれど、琵琶湖から京都に流れる琵琶湖疏水という人工の水路があり、ここを観光目的の船が季節限定で行き来しているのです。この船にびわ湖側から乗ると京都の蹴上に到着することができます。で、この疏水の工事責任者を務めたのが田辺朔郎氏なのです。就任当時23歳だった田辺氏にとって、疏水工事は最初の実践の場。ここで成果を上げた田辺氏は北海道の鉄道敷設にも大きく関わるなど、日本の発展に貢献してきた人物です。6月にびわ湖疏水を船で下った体験がとても思い出に残り、今回は紅葉の京都に向かうため再度船で京都に行ってきました。田辺氏についてや、疏水関連の遺構や施設は「その2」で紹介するとして、こちらでは紅葉の疏水船の旅をご紹介します。

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船で行く紅葉の京都

びわ湖疏水船の概略

びわ湖疏水船は、琵琶湖の水を京都に流すための水路、琵琶湖疏水の水路を走る船です。琵琶湖側から京都に向かう「下り便」と、京都から琵琶湖に向かう「上り便」があります。

運行時期は限定される

真夏と真冬は運休で、桜や新緑を楽しむ3月下旬から6月までの時期と8月下旬から紅葉が楽しめる12月上旬に運行されます。

シーズン料金あり

料金は大人一人5000円ですが、桜や紅葉の時期はちょっとupして、8000円です(2019年11月現在)。 

乗船時間は下り便の方が長い

琵琶湖から京都に向かう下り便がだいたい50分程度。水路の流れに遡る上り便はある程度スピードを出さないと船が安定しないため、35分程度と乗船時間は上り便の方が短いという不思議な現象です。どちらも料金は同じなので、私は2回とも 下り便を選びました。

予約は必須

狭い水路を行く船なので、定員が12名と少ないです。週末やトップシーズンは人気のアクティビティなので予約は必須。予約開始とともに桜や紅葉の時期の週末はアッというのに満席になるので、そういう時期に乗る場合は、予約開始と同時に予約をしましょう。いつから予約開始かなどは公式サイトのお知らせで案内されます。

公式サイトはこちら

www.biwako-sosui.jp

びわ湖疏水船で行く紅葉の京都

それではいざ乗船。6月に新緑を楽しんでいるので、その時との景色の違いもご紹介しますね。

乗船場でもある大津閘門

下り便の乗船場は大津閘門。扉の奥方向が京都への水路です。なんとなく木々が色づいていますね。

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大津閘門

ちなみに6月に乗船した時はこんな感じでした。青々とした景色です。

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6月の大津閘門

場所は京阪石山坂本線の「三井寺」から徒歩2分程度。

 

大津閘門は水道局の施設の一部なので、派手な看板などはありませんが、入り口の前にはスタッフが出ているので、乗船客は名前を告げると中に入れてくれます。 出発前のレクチャーがあるので、出発時間の30分前が集合時間です。

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歩道上でスタッフが出迎えてくれる

最初にトイレを済ませましょう

出発前に疏水についてや安全上のレクチャーがあります。そのレクチャーが終わるとそのまま乗船になるので、レクチャーが始まる前にトイレを済ませましょう。船にはトイレはついていません。敷地内にきれいなトイレが設置されています。さすが水道局の設備です。

乗船場へ

レクチャーが済むと、ガイドさんについて施設内を通り、乗船場に向かいます。普段は一般の人は入れない区域なので、びわ湖疏水船に乗る人だけが歩ける場所でもあります。両脇の石積みの壁に歴史を感じますね。石積みだったりレンガ済みの部分は建設当時のままなのだそうです。手前の船は今回乗る船ではなく、水路の仕組みを説明するために係留しています。乗船場はずっと前方(青い〇の場所)です。

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水路の縁を通って乗船場へ

こちらが今回乗船した「めいじ号」です。透明の屋根がついています。第一トンネル内で一か所、竪穴の部分からかなりの量の水が滝のようにトンネル内に落ちています。それをよけるための屋根がついていますが、桜や新緑、紅葉を楽しめるよう透明になっているんですね。ピカピカに磨き上げられていて、すばらしいメンテナンス。座席は写真の通りで、進行方向に対して横向きです。ただ今年新しく導入された「れいわ号」はもうちょっと斜め前を向くレイアウトでした。船は指定ができないので、どれに当たるかは当日のお楽しみです。

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「めいじ号」に乗船

第一トンネル

乗船すると、もう第一トンネルが目の前に見えています。まっすぐなトンネルなので、出口も遠くに見えます。トンネルの入り口の上には当時、この工事にかかわった政界の著名人が揮ごうした扁額が掲げられていますが、第一トンネルのこちら側には初代内閣総理大臣の伊藤博文が揮ごうした「気象萬千」という扁額が掲げられています。

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出発進行

さぁ、トンネルに入りました。耐震工事のためか、すでに内部はコンクリートで巻いてあり、当時のレンガや石積みの内部を見ることはできません。

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第一トンネル内

扁額はトンネルの出口だけでなく、実はこのトンネルの内部にもあります。疏水工事のリーダー、京都府知事の北垣国道氏の扁額です。人目につかないこんな場所に掲げるとは、北国氏の人柄がしのばれます。暗がりですが、船長さんが照明をつけてくれるますが、写真を撮るならフラッシュがあった方が良いかも。

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トンネル内の扁額

第一トンネルの全長は2436m。建設当時、日本で一番長いトンネルでした。今のような重機もなく、ほとんどが手堀り。東西両方の口から掘るだけでは時間がかかるので、途中に竪穴を掘り、竪穴からも掘り進む方式をとりました。そうなれば4か所で掘削ができ、時間が短縮できます。現在長いトンネルを掘る時には当たり前のような工法ですが、当時日本でこの方法でトンネルを掘った前例はなかったのです。

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竪穴を掘って工期を短縮

大学を出たての田辺朔郎氏の勇気と決断力には恐れ入ります。ただこの竪穴も掘るのには一筋縄ではいかず、かなりの苦労を強いられました。それは湧水との戦いでした。途中工事がストップすることがあったり、ポンプ主任が大湧水を止めたのちにシャフトに飛び込み自殺してしまったりと多難の連続でしたが、なんとか竪穴を掘り、第一トンネルも完成したのでした。その竪穴が今も残っていて、湧水も続いているわけです。通過は一瞬で滝のように流れ落ちる湧水を撮影することはできませんでしたが、連写モードや動画で撮ったら写るかしら?

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竪穴の下を通過

第一トンネルを抜けるのに約15分ほどかかります。真っ暗闇の中を進みますが、ガイドさんの絶妙トークで15分間退屈しません。やがて第一トンネルの出口に近づくと、向こう側の景色が水面に写ってとても美しい。疏水船最大のハイライトだと思います。

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第一トンネルの出口

ちなみに6月に乗った時の眺めはこんな感じでした。

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6月の疏水

こちらは第一トンネルの西口。扁額は山縣有朋氏が揮ごうしています。

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第一トンネルの西口

ここにはかなり紅葉した木がありました。

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紅葉の水路

船は山科に向かって下っていきます。隣には遊歩道がついています。

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疏水を進む

やがて次のトンネルが見えてきますが、これは第二トンネルではなく、諸羽トンネルという新しいトンネルです。以前は山をぐるっと回るように水路がついていましたが、湖西線を通すために水路を埋めて、こちらのトンネルで迂回することになりました。

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やがて諸羽トンネルへ

諸羽トンネルを出た後はしばらく遊歩道が水路に沿って設置されていて、散策する方々が手を振ってくれたらします。とても素敵な散策路だと思いますが、意外に人は少なく、静かです。紅葉の時期は京都の街中へ行くより、この辺りを歩くのも良さそうです。

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遊歩道も歩いてみたい

子供たちの遠足とすれ違い。たくさん手を振ってもらいました。

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遊歩道を行く遠足中の子供たち

第二トンネルに向かう

前方に本圀寺に向かう赤い橋が見えてきました。

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朱塗りの本圀寺正嫡橋

6月に乗船した時はこんな感じで、赤い橋と新緑とのコントラストがとても美しかったです。

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6月の本圀寺正嫡橋

本圀寺正嫡橋から第二トンネルまではモミジが植えられていて紅葉も美しいですが、新緑も美しい場所です。

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紅葉が美しい第二トンネル東側

同じく第二トンネル東側の6月の様子。

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6月の様子

第二トンネルは東口は丸い形をしています。

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第二トンネルに入りました

西口は馬蹄形という、東西の入り口の形が異なるトンネルです。

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第二トンネルの西口からの眺め

外から見るとこんな形です。西口の扁額は西郷隆盛の弟、西郷従道氏の揮ごうです。

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第二トンネル西口

第三トンネルを出たらゴール

続いて第三トンネルです。トンネルの手前の橋は、日本で初めて作られた鉄筋コンクリートの橋で、橋の横には「本邦最初鐵筋混凝圡橋」と刻まれた石碑があります。

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日本で最初の鉄骨橋と第三トンネル

こちらが石碑です。

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日本最初の鉄筋コンクリート橋を示す石碑

第三トンネルに入ると、この旅もあとわずか。乗船時間はあっという間です。第三トンネルを出たところに下船場が見えます。なんかもっと乗っていたい気分。このまま折り返しの上り便も楽しみたいところです。

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第三トンネルの向こうには下船場

第三トンネル西口の扁額は、三条実美氏が揮ごうしています。

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第三トンネル西口

下船場にて

下船場の向こうには第二疏水が見えます。第二疏水は主に飲用目的の水のため、琵琶湖からずっとトンネルを通ってここまで来ます。第二疏水を外から見ることができるのは唯一ここだけなのだそう。

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下船場の向こう側に第二疏水

ここで今年投入された「れいわ号」が係留されていました。シートがアップグレードして、向きも斜め前を向いています。これは疏水をより楽しめそうです。

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2019年に投入された「れいわ号」

下船した場所には、旧御所水道ポンプ室が建っています。京都御所が火事になった時に、高い屋根まで水をかけられるよう、こうした設備が用意されたのだそうです。ポンプ室は赤レンガの洋風建築ですが、設計は赤坂迎賓館と同じ方なのだそうです。いずれ重要文化財になりそうな風格です。ポンプ室は水道施設内の建物なので、ここまで近寄れるのは疏水船に乗った人のみです。

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旧御所水道ポンプ室

対岸から見るとこんな感じです。

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対岸に上ると下船場周りがこのように見えます

疏水船のスタッフも素晴らしい

ところで、疏水船は受付から始まり、事前のレクチャー、乗船案内、下船案内、船長、ガイドさんと多数のスタッフが関わります。どのスタッフも素晴らしいんです。それもこの疏水船の魅力だと思いました。特にガイドの案内はユーモアを交え、疏水の役割や歴史などをくまなく解説してくださり、本当に勉強になります。6月に乗った時のガイドさんの話術の素晴らしさにも驚きましたが、今回も素晴らしかったです。疏水は水道局の管理なので、もしかして水道局の中でそういう才能のある人を選んでいるのかと思い、今回ガイドさんに尋ねてみたら、外部の方なのだそう。納得です。

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素晴らしいスタッフ

まとめ

同じコースに1年に2回も来てしまいました。6月は疏水沿いの木々が青々としていましたが、11月も中旬になるとだいぶ色づいてきていて、違った趣で楽しめました。川面から眺める景色は、普段の目線よりずっと下がった位置から眺めるのでとても新鮮です。きっと桜の時期も素晴らしい眺めと思います。景色とガイドさんの説明の両方を楽しむと50分の乗船時間はあっという間です。上り便はさらに短い35分程度の乗船時間なので、同じ金額払うのなら、のんびり乗れる下りを選びたくなります。

琵琶湖疏水は当時の日本の一大事業だったので、疏水船以外にも周辺には疏水に関連した施設があります。そちらはその2でご紹介しています。

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6月の旅の様子はこちら

なお6月に乗船した時の乗船記はこちらです。 

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